5.天部



梵天 帝釈天 持国天 増長天 広目天 多聞天 兜率毘沙門 吉祥天 鬼子母神 大黒天 執金剛神 那羅延金剛
密迹金剛 焔摩天 閻魔大王 大自在天 伊舎那天 伎芸天 摩利支天 韋駄天 荼吉尼天 羅刹天 迦陵頻迦( 深沙大将

1) 如来・菩薩・明王とは異なり天部の神将像は
  仏教を守護する役目をもつ。天部の多くは古
  代インドの神々が前身である。
2) 大別:
  貴人の姿の貴顕天部と武器を執り忿怒の姿の
  武人天部に大別できる。
3) 貴顕天部:
  ヒンドゥー教の最高神である梵天、帝釈天、女神
  の吉祥天や弁財天など。
4) 武人天部:
  四天王・毘沙門天・仁王、執金剛神八部衆、十二
  神将・二十八部衆・深沙大将・大黒天などである。

1) 梵天・密教・(東寺) 1-1) 梵天・顕教(興福寺)
1) あらゆるもの生み出す呪文による霊力で世界を創造する
  ヒンドゥー教の最高神ブラフマーが、仏教に取り入れられ梵天
  となった。妃は知慧と学問、ないし雄弁と音楽の神たるサラス
  バティー女神(弁財天)である。何時でも弁財天を見ることが
  出来るため 四つの顔を持つ。

2) 仏教では帝釈天とともに護法の神とされ、帝釈天と一対として
  祀られることが多い。両者を併せて「梵釈」と称す。釈迦に随侍
  し,須弥壇に安置される。

3) 釈迦が悟りを開いた後、難解な悟りを広めることをためらった
  が、広めるよう勧めたのが梵天と帝釈天で梵天勧請と称される。

4) 仏教にはいって色界初禅天の最高位、第三天・大梵天に居住
  している。
  行幸する時は第二天・梵輔天の輔相(大臣)と第一天・梵衆天
  の天衆が常に前行する。仏法護持の神となる。
*密教:
(1) 鵞鳥座:ガチョウの羽ばた
  きが真理誘導
(2) 衣服:
  上半身条帛、下半身裳裾
(3) 印相:右手与願印
(4) 持物:右手払子・蓮華
  左手矛
(5) 面臂:四面四臂
 (四方に目を配る)
(6)作例:
  東寺講堂滝山寺
*顕教:
(1)善神立像
(2)衣服:唐人服
(3)持物:経巻、鏡、小壺
(4)面臂:一面二臂
(5)作例:
  東大寺法華堂興福寺
  法隆寺宝蔵院
  唐招提寺金堂
  三十三間堂
2) 帝釈天・密教(東寺) 2-1) 帝釈天・顕教
  (根津美術館)

1) 梵語名インドラの意訳「帝王」から 帝釈天と呼ばれる。

2) 古代インド神話では二頭立ての馬車や象に乗り、武器である
  金剛杵を手に持ち雷を操る戦闘神であるが、雨を降らせ大地
  に実りを与える太陽神としても信仰された。

3) 仏教に取り入れられると、 天部の最高位に属し、神々の王者
  とされる。戦いの神から、慈悲深く柔和で梵天と並ぶ仏教の二
  大護法神となる。仏教世界の中央にそびえる須弥山の頂き
  から人間界を見守っている。
  密教では十二天の1人であり、千手観音の二十八部衆の1人
  でもある。
 
4) 六欲天・刀利天の中央にある善見城に住む。

5) 夫人は阿修羅の娘舎脂で阿修羅との争いの原因となる。
  阿修羅に勝利し仏門に帰依させた武勇神でもある。
*密教:
(1) 白象座:象は聖獣
(2) 衣服:上半身は甲冑
(3) 持物:金剛杵・独鈷杵
(4) 面臂:一面二臂三眼
(5) 作例:
  東寺講堂滝山寺
*顕教:
(1)善神立像
(2)衣服:唐人服の下に甲冑
(3)持物:蓮華 、金剛杵
(4)面臂:一面二臂
(5)作例:
  東大寺法華堂
  三十三間堂唐招提寺
  法隆寺宝蔵院
  秋篠寺根津美術館
◎四天王
 (1) 帝釈天に仕え、須弥山の中腹にある四大王衆天の東西南北を守る守護神。
持国天 - 東勝身洲を守護する。乾闥婆、毘舎遮を眷属とする。
増長天 - 南贍部洲を守護する。鳩槃荼、薜茘多(へいれいた)を眷属とする。
広目天 - 西牛貨洲を守護する。龍神、富単那を眷属とする。
多聞天 - 北倶盧洲を守護する。毘沙門天とも呼ぶ。原語の意訳が多聞天、
  音訳が毘沙門天。夜叉、羅刹を眷属とする。
 (2)作例:
  金剛峰寺六波羅蜜寺当麻寺大安寺
  薬師寺法隆寺金堂東寺講堂広隆寺
  興福寺(東金堂北円堂南円堂中金堂)
  東大寺(法華堂戒壇院)、唐招提寺
  浄瑠璃寺
持国天法隆寺 増長天東大寺 広目天浄瑠璃寺 多聞天興福寺
1) 飛鳥時代
 法隆寺金堂の四天王像4体は中国色の強く動きの少ない直立像
 である。顔はこの時代特有の柔和な微笑を浮かべている。怒りの
 表情は眉のみで目も伏し目の菩薩眼である。
2) 天平時代
 聖武天皇は金光明最勝王経を信仰し四天王が王と国家を外敵や
 災いから護ってくれるとし東大寺を総本山に四天王護国寺、国分
 寺を全国に建立した。東大寺戒壇院の四天王像は体に動きがあ
 る写実的な表現になる。
3) 平安時代
 東寺講堂の立体曼荼羅の中の四天王は密教の仏像らしく恐ろし
 い忿怒相になる。一方、定朝様式の浄瑠璃寺の四天王は優美で
 華麗な技法が目立つ。顔は丸く目鼻が中央にまとまり眉がつり上
 がる。
4) 鎌倉時代
 興福寺南円堂、中金堂の慶派仏師によって造られた四天王像は
 武家の時代らしく写実的で体の微妙な動きを表現する優れた造形
 様式を残す。
3) 持国天(海住山寺)
(1) 持物:
  右手宝刀・左手腰
(2) 姿形:吽形 兜姿
(3) 色彩:
  @中国の四神に対応
  ・青龍(東)-青(緑)色
  A密教の五行に対応
  ・木(東)-緑色
1) 梵語名はドリタラーシュトラといい、提頭頼叱と音写される。
  「国土を支えるもの」との意味を持つことから「持国天」と呼ばれ
  る。東方の守護神。

2) 乾闥婆や毘舎遮を配下にする。

3) 仏の住む世界を支える須弥山の4方向を護る四天王の1人と
  して東面の中腹である 第四層の賢上城に住む。

4) 須弥山をめぐる大海にある4つの大陸のうち東勝身洲を守護
  する。東方の守護神であることから東方天とも呼ばれる。
4) 増長天(海住山寺)
(1) 持物:
  右手三叉戟・左手腰
(2) 姿形:阿形
(3) 色彩:
  @中国の四神に対応
  ・朱雀(南)-赤色
  A密教の五行に対応
  ・火(南)-赤肉身色
1) 梵語名は毘楼勒叉(びるろくしゃ)と音訳され「発芽し始めた
  穀物」という意味を持ち、五穀豊穣を司る。超人的な成長力
  をもって仏教を守護することから「増長天」と言う。

2) 帝釈天の配下で、須弥山の4方向を護る四天王の1人として
  南瑠璃タ(みなみるりた)に住む。

3) 須弥山をめぐる大海にある南の方角、人間の住む南閻浮提
  (なんえんぶだい)・[南贍部洲(なんせんぶしゅう)とも言う]を
  守護する。

4) 鳩槃荼や薜茘多(餓鬼)を配下にする。
5) 広目天(海住山寺)
(1) 持物:
  右手筆・左手経巻
(2) 姿形:千里眼
(3) 色彩:
  @中国の四神に対応
  ・白虎(西)-白色
  A密教の五行に対応
  ・金(西)-肉身色
1) 梵語名は毘楼博叉と音訳され意味は「特殊な力を持った眼を持
  つ」であり、意訳では「醜目天」とも呼ばれる。 西方の守護神。

2) 帝釈天の配下で、須弥山の4方向を護る四天王の1員として
  白銀タ(はくぎんた)に住み、須弥山をめぐる八海にある4つの
  大陸のうち西牛貨洲(さいごけしゅう)を守護する。

3) 龍王をしたがえ、浄天眼(じょうてんげん=千里眼)で この世を
  観察し、仏の教えとそれを信じる者を護る。
6) 多聞天(海住山寺)
(1) 持物:
  右手三叉戟/金剛棒
  左手宝塔
(2) 色彩:
  @中国の四神に対応
  ・玄武(北)-黒(群青)色
  A密教の五行に対応
  ・水(北)-白肉身色
(3) 単独(毘沙門天)作例:
  願成就院浄楽寺
(4) 三尊形式:
  鞍馬寺雪蹊寺青雲寺
1) インドでの財宝神クベーラを仏教に取り入れたもので片手で
  宝塔を持つ。帝釈天の配下の北方の守護神で、須弥山をめ
  ぐる大海にある4つの大陸のうち北倶盧 (ほっくる)洲を守護する。

2) 釈迦説法をよく聞く者を意味する。夫人は吉祥天で有財城に
  住む。

3) 単独では別名の毘沙門天と呼ばれる。吉祥天と善膩師童子
  をしたがえた三尊形式がある。

4) 聖徳太子の戦勝祈願の本尊。七福神の一人として、又、上杉
  謙信の旗印に毘の文字を入れる。

6) 兜跋毘沙門天(奈良博) (1) 宝冠:
  膝丈金鎖甲・四方宝冠
(2) 持物:右手戟・左手宝塔
(3) 台座:
  地天女及び二鬼の両手
(4)作例:
  東大寺中門清凉寺
  東寺宝物館
  奈良博物館
1) 兜跋国(現チベット・ウイグル自治区)が敵に攻められたとき、
  城にいた僧侶達 の祈りで毘沙門天が出現し敵を一撃で撃退
  したとの伝承がある。

2) 他の天王が邪気を踏みつけているのに対し、 地天女の両腕
  で支えられて立ち、尼藍婆(にらんば)、毘藍婆(びらんば)という
  邪鬼を従えている。金鎖甲という鎖を編んで作った鎧を着し、
  腕には海老籠手と呼ぶ防具を着け筒状の宝冠を被る。左手に
  宝塔、右手に宝棒または戟を持つ異国風の像である

3) 外敵から国家を護る仏像であり東寺の兜跋毘沙門天像は
  かつて羅城門の楼上に安置されていた。
7) 吉祥天(浄瑠璃寺)
(1) 持物:
  左手宝珠・右手与願印
(2) 衣服:唐貴婦人
(3) 作例:
  法隆寺金堂観世音寺
  鞍馬寺浄瑠璃寺
  雪蹊寺興福寺
1) もとはヒンドゥー教の美、幸運、富の女神であるラクシュミーが
  仏教に取り入れられたもので大弁功徳天とも言う。幸福・美・五
  穀豊穣の神として尊敬を集め、崇拝されている。

2) 平安時代には吉祥天を本尊とし罪の懺悔と五穀豊穣を祈願す
  る吉祥悔過という密教の法要が行われた。

3) 父は散支夜叉、母は鬼子母神、夫は毘沙門天、子が善膩師童
  子となる。毘沙門天の婦人として有財城に住む。
8) 弁才天(岩船寺)
(1) 持物:琵琶を抱く
(2) 衣服:宝冠唐貴婦人
(2) 頭上:蛇神宇賀神
(3)作例:
  東大寺ミュージアム
(4) 日本三大弁財天:
  江島神社
  宝厳寺/竹生島神社
  大願寺/厳島神社
1) もとはインドのサラスバティー川の河神であり,女神の姿に造形
  化したもの。 のちに梵天の妃となった。仏教に取入れられて
  音楽,弁舌,財富,知恵,延寿を司る女神となった。

2) 湖沼に住む魔物を静める水神として弁天堂に祀られる。

3) 中世以降、弁才天は宇賀神(出自不明の蛇神)と習合して、
  頭上に翁面蛇体の宇賀神をいただく。宇賀弁才天として
  広く信仰されるようになる。弁才天の化身は蛇や龍とされる。
9) 鬼子母神(三井寺)
(1) 持物:左手子供を抱く・
 右手柘榴/両手銅バッ子
(2) 衣服:宝冠唐貴婦人
(3) 頭上:馬頭
(4) 作例:
  三井
1) 梵名ハーリーティーを音写した訶梨帝母とも言う。毘沙門天の
  部下、散支夜叉(パーンチカ)の妻で、500人の子をもつ母である。

2) 多くの子をもっていたが,常に他人の子を奪って食べるので,
  釈迦が鬼子母の子を隠して,子を食う罪をさとした。 以後仏教
  に帰依し、子供と安産の守り神となった。盗難除けの守護とも
  される。

3) 日本では法華経の行者を守護する善女神とされ,とくに日蓮宗
  の守護神として崇敬された。
10) 大黒天(興福寺)
(1) 持物:
  右手金袋/小槌、
  左手金棒/袋を背負う
(2) 装飾:
  髑髏瓔珞・蛇腕輪
(3) 面臂:
  第三眼・三面六臂
(4)作例:
  延暦寺観世音寺
  興福寺金剛輪寺
  文化庁松尾寺
1) 梵語のマハーカーラで、摩訶迦羅と音写。マハーは偉大を、
  カーラは黒(暗黒)を意味する。元来ヒンドゥー教の主神の一
  つで、青黒い身体をもつ破壊神としてのシバ神(大自在天)の
  別名である。

2) 日本では、中国南部の諸寺の厨房に祀られた金袋を持つ財福
  を強調した大黒天が最澄によってもたらされ、天台宗寺院の台
  所の守護神としてに祀られた。その後、台所の守護神から福の
  神としての色彩を強め、七福神の一つとなる。

3) 本来の像容は、一面二臂、青黒か黒色で忿怒の相で表現された
  が、容姿の類似から大国主命と重ねられ、頭巾をかぶり左肩に
  大袋を背負い、右手に小槌を持って米俵を踏まえる厨房神・財
  神として描かれる。 商売繁盛、田の神として信仰を集めている。
11) 執金剛神(金剛院)
(1) 姿形:
  忿怒形・甲冑を付ける
(2) 持物:右手金剛杵
(3) 作例:
  東大寺法華堂
  金剛峰寺
  金剛院
1) 起源はギリシア神話の英雄ヘラクレスであるとされる。 梵語名
  はバジュラ・サットゥバで,執金剛,金剛手秘密主などと漢訳
  された。

2) 手に煩悩を砕き悟りの心を開く金剛杵を持ち仏法を護る夜叉。
  衆生が生まれながらに持つ菩提心を象徴する。

3) 執金剛神は初期には1人着甲の武将姿として造形安置される
  のが一般的であるが、後には、金剛力士と起源を同一とする
  考え方から、阿と吽の2体に表現されて寺門などを守護する
  仁王となる。
12) 那羅延金剛力士(東大寺)
(1) 姿形:
  阿形、上半身裸形
(2) 作例:
  法隆寺中門
  興福寺国宝館
  醍醐寺西大門
  東大寺法華堂
  東大寺南大門
1) 那羅延とはヒンドゥー教の神ヴィシュヌの異名「ナーラーヤナ」
  の音写 。仏教に取り入れられ護法善神となる。大力があると
  され、勝力と訳される。何者にも破壊されることのない力強い
  身体を例えて那羅延身、那羅延力という。

2) 密迹金剛力士と一対になっており寺院内に仏敵が入り込むこと
  を防ぐ守護神。 一般的には向かって右側に口を開いた阿形、
  左側に口を結ぶ吽形の力士を配する。 阿は全てを生じさせる
  理念の本体で、吽はそれらが帰着する叡智を意味する。阿形と
  吽形の配置で、全ての始まりと終りを象徴する。

3) 那羅延金剛は、口を開いた阿形で 、筋骨隆々とした上半身裸
  形で、両手を上下に張り大力を示し怒りを顕わにする。
13) 密迹金剛力士(東大寺)
(1) 姿形:吽形・上半身裸形
(2)作例:
  法隆寺中門
  興福寺国宝館
  醍醐寺西大門
  東大寺法華堂
  東大寺南大門
1) 梵語ではヴァジュラダラと言い、仏に親しく近づいて、仏の秘密
  の教えを聞こうとする。

2) 仏敵を退散させる武器である金剛杵を持つ。

3) 那羅延堅固王と山門守る仁王の一体。 一般的には向かって
  右側に口を開いた阿形、左側に口を結ぶ吽形の力士を配する。
  「阿」は全てを生じさせる理念の本体で、「吽」はそれらが帰着
  する叡智を意味。阿形と吽形の配置で、全ての始まりと終りを
  象徴する。

4) 密迹金剛は、口を結ぶ吽形で、首を左にひねり、右手は腹の高
  さに上げ掌を開き、左手は腰の辺で拳をつくり怒りを内に秘める。
14) 焔摩天(醍醐寺) 1. 焔摩天の作例はそう多く
  はなく、ほとんどは、十二
  天図や曼荼羅の図像とし
  てである。

(1) 面相:
  菩薩相・宝冠唐貴婦人服
(2) 台座:水牛座
(3) 持物:右手人頭幢
(4) 作例:醍醐寺
1) ヒンドゥー教において冥界を支配するといわれる死神ヤマの
  音写。仏教に取り入れられ、運命、死、冥界を司る天部の神
  となった。密教においては方位神の集団「十二天」の一柱と
  され、南方の守護神とされる。

2) ヤマの、天上世界での側面が欲界第三天の盟主として焔摩
  天が現れ、地下冥界での側面が地獄道の王として閻魔大王が
  現れる。

3) 白い水牛に乗り,左手に人頭幢をもつ。人頭幢は衆生の行い
  を監視するもので半月形の人頭を竿の先にのせ不気味な威力
  を暗示する。
15) 閻魔大王(宝積寺)
(1) 衣服:道教服
(2) 持物:右手笏・閻魔幢
(3)作例:
  宝積寺矢田寺
  白毫寺円応寺
1) 焔摩天と同様にヒンドゥー教において冥界を支配するといわれ
  る死神ヤマの音写。仏教に取入れられて、衆生の行いや罪を
  審判し悪を懲ら しめる地獄の主神、冥界の総司となる。

2) 中国宋代の裁判官の服装で上方の開いた方形の冠をつけ、
  あげ頸の服を着て,両眼をむき出して叱咤の勢をなす恐ろしい
  形に造形される。

3) 閻魔王の法廷には、浄玻璃鏡(じょうはりきょう)という亡者の
  生前の行為をのこらず映し出す鏡がある。裁かれる亡者が
  閻魔王の尋問に嘘をついても、たちまち見破られる。司録、
  司命という地獄の書記官が左右に控え、閻魔王の業務を補佐
  している。
16) 大自在天(三十三間堂)
1. 別名:
  @摩醯首羅
  (マケイシュラ)
  A薩遮摩和羅
  (サシャマワラ )

(1) 台座:白牛座・
(2) 面相:忿怒相・
(3) 面臂:三目八臂
(2)作例:三十三間堂
1) 梵語のマヘーシュバ ラの音写で摩醯首羅(マケイシュラ) や
  薩遮摩和羅(サシャマワラ ) とも云う。大自在天、摩醯首羅王
  とも言う。ヒンズー教のシヴァ神である。

2) ヴェーダ神話には、ルドラとし て登場し、暴風、雷雲、医療を
  司る神になる。

3) 仏教では色界最上の浄居天に住み 三千世界の主として 一切
  衆生の願望を成就させる。

4) 大自在天の誕生時に鬼神や諸天の梵天が集まり誕生を礼拝
  したが、梵天王は自らの五つの頭中の醜悪な一つを取ること
  を願った。大自在天は大鷹の身に変じてそれを摘去したという。
  故にその手に梵天の頭を持つとしている。
17) 伊舎那天(東京博物館) (1) 台座:牛乗座
(2) 面臂:
  三目八臂・忿怒相
(2) 持物:
  左手血入り髑髏杯
  右手三鈷戟
(3)作例:東京博物館
1) ヒンドゥー教のシヴァ神(仏教の大自在天)もしくはルドラ(忿怒
  の火神・風神)の変化身とされる。鬼門にあたる東北方の護法
  神。第六天魔王の住処である「他化自在天」の主とされる。

2) 黒青色で、怒りの三目と上を向いた牙(きば)をもち、首に髑髏の
  瓔珞をかけ、左手には血を盛った器盤、右手には鉾鎗を持ち
  黄牛に乗る。これは迷いや欲望を絶つため、人生の無常さや
  身のはかなさを悟らせるためと言われる。

3) 伊舎那天が喜ぶ時はすべての神々も喜び、魔障は現れない。
  しかし、伊舎那天が怒った時は、魔障がみな現れ国土が乱れ
  ると言われる。
18) 伎芸天(東芸大)
(1) 姿形:天女形
(2) 作例:秋篠寺、東芸大
1) 摩醯首羅天(大自在天=シヴァ神)が楽器を奏でていたときに
  髪の生え際から誕生した天女、芸能をつかさどる女神。

2) 形像は、顔容端正で、左手は上に向けて天華(てんげ)を捧げ、
  右手は下に向けて裳裾(もすそ)を持つ。

3) 密教では、容姿端麗で舞踏・器楽を奏でることに優れている
  伎芸天を本尊として、修法(伎芸天女法)を行う。

4) 種々の伎芸や福徳が得られるように速やかに芸の上達を願う
  多くの芸能従事者から篤く信仰されている。
19) 摩利支天(当麻寺)
(1) 台座:
  猪乗(猪突猛進)
(2) 面臂:三面三目
(3) 姿形:天女形
(4)作例:当麻寺
1) 陽炎、太陽の光、月の光を意味するマリーチを神格化したもの。
  実体がなく、捉えられず、焼けず、傷付かない陽炎は、日天の前
  に疾行し、自在の通力を有すとされる。

2) 梵天の子、あるいは日天の妃ともされ、摩利支天を念ずれば
  他人から見られ知られることなく、捉え害されることなく、だまし
  罰せられることなく、自らの望むところを成就できるとされる。

3) 日本では護身や蓄財などの神として武士の間に摩利支天の
  信仰があった。 楠木正成は、兜の中に摩利支天の小像を
  納め、毛利元就や立花道雪は摩利支天を旗印として用いた。
20) 韋駄天(万福寺) (1) 姿形:着甲像
(2) 印相:合掌宝剣
(2)作例:
  万福寺、泉涌寺長龍寺
  乙津寺
1) 元々ヒンドゥー教のシヴァ神の子で悪魔を打ち破る軍神スカ
  ンダ。仏教に帰依後、四天王・増長天に従う八大将軍の1人
  として、仏法と寺院を護る守護神として信仰される。

2) 足の速い鬼が仏舎利を奪って須弥山へ逃げ去った時、これを
  追って取り戻したという説話から、よく走る神、盗難除けの神
  として知られる。

3) 韋駄天が釈尊のために方々を駆け巡って食物を集めたとの
  俗信に由来して、御馳走という言葉が出来た。
21) 荼吉尼天(大阪・東大寺)
(1) 台座:狐乗座
(2) 持物:
  右手剣・左手宝珠
(2)作例:大阪東大寺
1) 梵語のダーキニーを音写したもので、生きた人肉を食う夜叉
  または羅刹 の一種。大日如来の化身とされる大黒天に諭さ
  れて人肉を食べることを止め、仏法に帰依した。

2) 江戸期以降、狐が霊的動物として稲荷神の使いないしは稲荷
  神そのものとして信仰される稲荷社と荼枳尼天が結びつき同
  一視されていた。

3) 稲荷権現、飯綱権現と習合し、憑き物落としや病気平癒、開運
  出世の福徳神として信仰される。俗に荼枳尼天は人を選ばな
  いといわれ、博徒や遊女、被差別階級等からも信仰をあつめ
  る。一般に荼吉尼天は白狐に乗る天女の姿で表される。
22) 羅刹天(岩船寺)
(1) 台座:獅子座
(2) 持物:
  右宝剣・左ピース印
(3)作例:岩船寺
1) ヒンドゥー教に登場する鬼神ラークシャサが仏教に取り入れら
  れたもので、 夜叉と同様に毘沙門天の眷属として仏法守護の
  役目を担わされる。

2) 四天王の一である多聞天(毘沙門天)に夜叉と共に仕える。

3) 十二天では「羅刹天」として西南を守護し、手にした剣で煩悩
  をつといわれる。 全身黒色で、髪の毛だけが赤い鬼とされる。

4) 日本では羅刹の魔物としての性格が強調され、地獄の獄卒と
  同一視され恐れられた。源信の往生要集では凄惨な地獄描
  写の中で羅刹は亡者を責める地獄の怪物として描かれている。
23) 迦陵頻迦(奈良博物館)
(1) 姿形:人面鳥身
(2)作例:
  中尊寺東京博物館
1) 梵語のカラヴィンカの音写。浄土曼陀羅の絵などでは上半身は
  美女、下半身は鳥の姿の想像上の生物。

2) まだ殻にあるときからに美しい声で鳴くともいい、極楽浄土にす
  み、その声は聞くものを飽きさせることがなく、 比類なき美声で
  あるという。
24) 深沙大将夜叉(金剛峯寺)
(1) 持物:
  手に白蛇 ・ ドクロ胸飾
(2) 装飾:
  膝頭に象皮の膝当
  腹部に童子面
(3) 作例:
  金剛峰寺金剛
  明通寺
1) 玄奘三蔵が天竺へ向かう時に流砂からあらわれ法師を守護
  したとされ、西遊記の沙悟浄のモデルとなる。

2) 観音菩薩の化身とされ、砂漠の旋風や悪疫の難を除き、災い
  を救い益を成すという。
3) 髪の毛は逆立ち、胸に7つの髑髏の瓔珞を巻き、腕には蛇を
  絡ませ、膝には象革の袴を履き、腹には人面を付ける。

4) 象皮の面 は象のように荒れ地を突き進み、砂漠をも乗り越
  える強靱を七つのドクロの胸飾りは、玄奘三蔵が七度生まれ代
  わってそれぞれの頭蓋骨を示す。腹部の童子の顔は深沙大将
  が童子の体に憑りつき童子の顔だけが腹部に残ったもの。

6.八部衆
 

五部浄居天沙伽羅龍王鳩槃荼乾闥婆阿修羅迦楼羅緊那羅畢婆迦羅

1) 古代インドの龍族 、鬼神、戦闘神、
  音楽神、動物神など仏教に帰依した
  八つの神々の総称。
2) 十大弟子と共に釈迦如来の眷属
  を務める
3) 作例:興福寺国宝館

1) 五部浄居天
  (天部)
(1) 頭上:象頭・
(2) 持物:両手各々太刀
(3) 姿形:甲冑姿
1) 象の冠を被り宝剣を佩いた偉丈夫の鬼神として現
  される。
2) 礼法や治法を司る仏神。
3) 色界最上界の色究竟天を含む四禅第5天〜9天
  (五浄居天)の盟主。
2) 沙伽羅龍王
  (竜族)
(1) 持物:右手太刀・
  左手蛇
(2) 冠上:大蛇
1) 雨乞いの本尊で龍宮の王である。王女善女龍王は
  牛頭天王の后である。
2) 空海の神泉苑での雨乞祈祷では沙伽羅龍王の王女
  善女龍王を勧請し雨を降らす。
3) 鳩槃荼夜叉
  (夜叉)
(1) 持物:鼓とばつを持つ
(2) 面相:首上が馬
1) 人の精気を食い甕の形の睾丸を持つ。
2) 興福寺八部衆(口を開き逆立つ頭髪)。
4) 乾闥婆
  (けんだつば)
(1) 持物:右手法輪・左手
経巻
(2) 姿形:獅子冠・着甲
1) 元は歌神で香を食べるとされ、神々の酒ソーマの
  守り神。
2) 仏教に帰依後は胎児、小児を守護し悪魔をはらう神。
5) 阿修羅 (1) 持物:
  第1手合唱・
  第2手日と月・
  第3手右宝矢・左宝弓
(2) 姿形:裸形
(3) 面臂:三面六臂、
  忿怒相
1) 戦闘神であり帝釈天との悲酸な争いを修羅場と言う。
2) 帝釈天との戦いに敗れ天界刀利天を追放される。
3) 修羅界の盟主となる。
6) 迦楼羅 (1) 姿形:鳥頭人身有翼
  着甲像
(2) 持物:横笛
1)竜を好んで常食するという伝説上の鳥、金翅鳥
  (こんじちょう)とも言う。
7) 緊那羅
  (十二神将・
  真達羅)
(1) 面臂:一角三目
(2) 頭上:象の冠
(3) 持物:太鼓
(4) 姿形:半身半獣・裸形
1)インドの楽神で、美しい歌声をもつ鳥が神格化 され
  歌神となる。
2) 神にも人にも畜生にも鳥にも当たらない半身半獣の
  非人間。
3) 帝釈天の眷属。
8) 畢婆迦羅
  (ひばから)
  (十二神将・
  毘羯羅)
(1) 持物:右手垂下・
  左手宝棒
(2) 面相:口や顎に髭
1) もとは大蛇を神格化した竜王。
2) 音楽の神で横笛を吹く。